スクエアテーパー

7 【今さら9速④】スクエアテーパーBBのMTB用トリプルクランク各種を比べてみる

再掲:表1(Qファクターの数値は、BB軸116mmのとき)
クランク長   Qファクター 右クランク重量 左クランク重量 P.C.D.
  ダブル        
165 参考:シマノ600アラベスク 145     110
  トリプル        
170 ①FC-MT60(730) 158 321g(含インナー用ワッシャー) 234 110/74
②Altus C20 160     -
③suntour XC-Pro MD 161 左右計458 94/56
④FC-M200(201?) 165 311 242 110/74
⑤sugino Impel(5アーム) 170 左右計492 94/58
⑥FC-M739(5アーム) 174     110/74
⑦FC-M563 175 左右計466 94/58
⑧FC-M431 186     104/64

押し入れから引っ張り出していくつか重さを計測したので書き加えた。
今回左右別々に測るのがめんどうで一緒にしてしまったが、特に問題はないと思う。
空欄になっているクランクは、使わないのでヤフオクに出したりして今は手元にない。

これらのクランクも細かく特徴を見比べていくと色々なことがわかってくる。
この表の並びはQファクターの狭い順だが、だいたい年代の古い順の並びにも近くなっている。

①FC-MT60(FC-M730と同型)
mt60
今回測定した中で最もQファクターの狭いMTBクランク。私の使用条件(軸長107mm)だとQファクターは149mmとなる。インナーギア固定用のボルト穴がスパイダーと面一で、スペーサーでギア板を浮かせ長いボルトで取り付ける仕様になっている。下図の左参照。
BlogPaintBlogPaint
このスペーサーとボルトは代替品がなかなか手に入りにくいと思われるため欠品に注意。

②Altus C20
1993 - ALTUS C20
エントリーモデルによく使われていたコンポーネントで、ギア歯数は48-38-28。ギアが固定されボルト交換できないかわりに全体的に薄く平べったく出来ていて、Qファクターはかなり狭いので、ギア比がこれでOKだったら結構使える。ただ見てくれは黒の鉄ギアでスパイダーに見える部分はなんとプラスチック。かなりチープ。


③Suntour サンツアー XC-Pro MD
xcpro
サンツアー最後のMTBクランクで、MDはマイクロドライブの略。PCD94/56で最小20tというリングが用意されていた。
クランクは薄くスパイダーは平らでコンパクトにできていて、左右合わせた重量も458gと軽い。
当時、MDの登場はインパクトがあり、シマノもそれまでのPCD110/74から94/58に変更するほどだった。元が最上級グレードなのと、インナー20tリングが特殊なPCDのため代替品がなくやや高騰しがち。
このクランクもFC-M730(FC-MT60)と同じくインナー取り付け部が平らで、スペーサーで浮かせる仕様になっている。
BlogPaint

④FC-M200
200
②の一つ上のグレードで、こちらはギア交換可能だが、クランクの仕上げ(塗装?)が似ている。これも入門グレードなので、鉄ギアと組み合わさってる。②と比べると、ギアをボルトで取り付けるためスパイダーが肉厚になっており、少しQファクターも広がっている。
オークションでは激安で、錆びたギアもそのままに出品されたりしている。が、ギアが傷んでいるわりにクランクのコンディションは良好だったりして狙い目。
思うに、オーナーが自転車に慣れて上のグレードのコンポにすぐ交換されたり、はたまた、飽きて倉庫に仕舞い込まれたりと、エントリー自転車にありがちな運命を辿ったためではないだろうか。年式のわりには酷使されていない場合が多いようだ。

⑤Sugino スギノ Impel(5アーム)
impel
PCD94/58の中で最もQファクターが狭いクランク。③とは違い、このPCD58というインナーは現在でもかろうじて新品が入手可能。
このクランクはシマノやサンツアーなどの製品と違い、5つのスパイダーアームのうち一つがクランクを兼ねている。そのデザインの効能か、華奢な感じはしないのにそこそこ軽い。他社は、クランクの先から5本のアームが広がっているが、これは4本で、残りの1本はクランク裏に隠しボルトを締めるようになっている。
なので便宜上5アームと呼んでいるが実際は4アーム。Suginoの製品カタログを見ると、今もこの形のクランクがロード用にラインナップされている。
私はこのおかしな形のスパイダーとそこからクランクに流れるラインがわりと好み。ただ、他社のアウターチェーンリングを取り付けようとすると、チェーン落ち防止ピンの場所が合わないのには困る。

⑥FC-M739
739
Deore XTグレード。XTRグレードのFC-M950について調べていたところ、Qファクターが狭いという評判を見かけ、ならば、XTも似たようなものでは、と考えてこのクランクに手を出したがイマイチ。しかも元ネタの950シリーズすら、現代のクランクと比較しての話であり、今回検討しているような意味で狭いわけではなかった。(4アーム切り替わり期の製品ということはすなわち、リアハブOLDが135mmに拡大された時期を過ぎているわけだから、そこまで狭いはずがないと本稿を書きつつ気付いた)
私が手に入れたのは5アーム版だが4アーム版も用意されていて、スパイダーがアフターパーツとして互いに入れ替え可能だった。ちょうどMTBクランクの4アームと5アーム切り替わり期で、互換を保ちつつ4アームへの移行を促すための仕様だったのだろう。
このスパイダー部分は最上級のXTR(FC-M950、951、952)とも付け替えることができるが、本機種のスパイダーのほうがちょっと厚いようで、950シリーズに移植すると微妙にチェーンラインが変わるらしい。

⑦FC-M563
563
これは写真だけ見て、スパイダーとクランクの付け根の部分が凹んでいるのでQファクターも狭いような気がして手を出したら、クランクが湾曲し外に膨らんだ形状だった。写真だけでQファクターやクランクの湾曲ぐあいを正確に想像するのは非常に難しい。アルミは光り加減でなんとなく湾曲が少なく見えてしまう。撮影の時、左右クランクを軸のところで合わせて(拝む手のような感じに)、湾曲具合を見せてくれればいいのに、と思うが、そんな妙な写真を撮る人はこれまで見たことがないし自分でも撮らない。
これもXTRシリーズのM950と同じ96年に登場したもので、⑥と同じ理由で事前に推理可能だった。

⑧FC-M431
431

Qファクターについてまったく何の考えも持っていなかったころに何となく手に入れた。が手元に届いた直後にQファクターとはなんぞやという事を知り、計測だけで未使用のままお蔵入り。私がこの問題について考えるキッカケとなったクランク。

つづく



2013.1.3追記

FC-M900(初代XTR)について
この機種が発売された年はFC-M563と同じなので、マウンテンバイクの135ミリリアハブへの対応がされているはずである。
従って、残念ながらFC-M900のQファクターはそれほど狭くないと予想される。
最高級グレードなのであまり安くないし、サンツアーのXC-Proと比べるとデザインも凡庸な機種だから、買うのはイヤだが、機会があれば測定だけはしてみたい。

5 【今さら9速③】スクエアテーパーBBクランクの長所と短所まとめ

次に欠点を考えてみよう。
スクエアBB時代のクランクが現代の2ピースクランク(ホロテク2など)と比べて不利な点のひとつに、重量が挙げられる。
ホロテク2の例を挙げると、シマノ105トリプルクランクFC-5703は、BB込み重量が920gである。
一つ下のシリーズのティアグラFC-4603は1105gでぐっと重くなるが、上のアルテグラFC-6703は892gとやはり軽い。(関係ないがアルテグラはPCD92という特殊なインナーギアを採用しているそうだ。理由があるらしいんだけどなぜだろう?)
これらより2世代も昔のクランクというのは、比較すると一体どのくらい重いのか。
上の表で最もQファクターの数値が優秀なFC-MT60(FC-M730と同型)のBB込み総重量を計算してみる。
BBはフレームとの組み合わせによって変わるので参考値として手に入れやすいTANGE LN7922を用いた。
表2 タンゲ LN7922と①FC-MT60を組み合わせた場合の重量
BB TANGE スクエアBB LN7922(110mm) 233g
クランク FC-MT60 左右(含インナー取付用ワッシャー) 555g
アウターギア シマノXT SG-X 48t 106g
ミドルギア シマノFC-M520 36t Y17S93600 43g
インナーギア シマノ ステンレス24t 40g
ボルト スギノ アルミアウターFIXボルト 9g
ボルト 専用インナーFIXボルト 19g
ボルト クランクFIXボルト 26g
ボルト アルミクランクキャップ 4g
合計
1035g

  1. アルテグラ FC-6703 … 892g
  2. 105    FC-5703 … 920g
  3. 四角軸  FC-MT60 … 1035g
  4. ティアグラ FC-4603 … 1105g
予想通りというか案の定というか、105より115gも重い。しかし意外なことに、ティアグラに比べると80g軽く仕上がっている。
つまりFC-MT60(FC-M730)を上記の組み合わせで使うと、ティアグラと105のちょうど中間クラスの重量になることが分かった。
また別の例として、現在私が使っている⑤スギノImpel(5アーム)をできるだけ同条件で計算すると、約980gとなる。できるだけというのは、ギアの PCDが違ったり、同じ歯数のものがなかったりして、完全に一致はできないからだが、これもやはり105よりは重く、ティアグラよりは軽いという結果になる。
さてこれを軽いと見るか、重いと見るか。
欠点を考えてみよう、なんて言ったわりには少し矛盾しているかも知れないけれど、私は意外と軽いと思っている。もちろん絶対値としては決して軽くないから他の様々な利点とを勘案しての話だが、使うのをためらうほどは重くない、と言ったところか。いかがだろうか。

スクエアテーパー軸時代のMTBクランクまとめ:

利点1 現在でもまだ何とか新品で手に入るギア板の中で、現行クランクにはできないクロースなギア構成の選択が可能
利点2 BB軸長を変えることで、ギリギリまでQファクターを狭めることができる
利点3 意外と軽い!?

欠点1 10速チェーンだとチェーン外れが起きたときに噛み込んで危険かも
欠点2 中古の場合破損したら替えが効かない
欠点3 それなりに重い
欠点4 クランクやギアの基本性能(剛性・回転など)はホローテックIIとは比べるべくもなく劣る(と思われる)

(※2013/5/30追記 回転性能はスクエアBBのほうがシマノのホロテクよりも良いらしい。ホロテクはベアリングがBB最外部にあり、防水性能を保つためシールがベアリングに覆い被さってカップ部に接触している。
またグリスも防水性を重視した硬いタイプを使用している。
これら2つの要因が重なって、回転が重い。)


さてスクエア軸MTBクランクをロードバイクに流用する場合についてつらつらと考えてみたが、条件さえ合えば、これは決して古くて使いど ころのないパーツなどではなく、むしろホビーユース、とりわけ、さまざまな斜度の道を走る長距離ツーリング用としては現代でも需要を十分に満たすことがで きるパーツと言えるのではないだろうか。
実際に、私が挙げたクランクの型番でネット検索すると、似たような目的で今でも現役で使用しているユーザーの方が多くおられる(らしい)ことが伺える。

個人的な理想を言うなら、PCD94/58でQファクターがFC-MT60(FC-M730)並みに狭いクランクに、46-32-22を組みたい。 これに9sの12-28スプロケを組み合わせれば十分にクロースかつ低ギア比を実現できる。こんなクランクは存在しないし、今後現れる可能性もゼロだろうが、サイクリング人口の裾野が拡がった今なら需要は少なからずあるのではないか。
私のように脚力がないのに坂道で足を着くのは死ぬほどイヤ、そんなことなら自転車乗らなくて結構、むしろ足さえ着かなければ押すより遅くてもいい、というような向きには、十分納得のいただける結論だと思うのだがどうだろうか。

つづく
  • ライブドアブログ